PFCフリー(=フッ素フリー、PFASフリー、C0撥水)で変わったこととは?

いま、アウトドアウェアに使われている撥水剤が変わってきているのをご存じでしょうか?これまでは水を弾くのが当たり前だったレインウェアに変化が訪れてきています。水が弾きにくいレインウェアになってきています。もちろんレインウェアだけの局所的な観点だけ見てしまうと好まれない変化ではありますが、もっと地球全体として見てみれば好ましい変化です。

今回の生地ではこのC0撥水の流れ(=PFCフリー=フッ素フリー)になったことで、これまでとどう変わったのか、どんなことに気を付ける必要があるのかをQ&A形式で解説していきます。

※なお、PFCフリー、フッ素フリー、PFASフリー、C0撥水は、厳密に言えばそれぞれの違いはあるものの、実用上は同じ意味として使われていますので、全て有機フッ素化合物が使われていない撥水だと理解頂いて問題ありません。

そもそもPFCフリー(=フッ素フリー)撥水とは何ですか?

これまで私たちは数十年にわたりフッ素を使った撥水を使ってきました。これをフッ素を使わない撥水剤に切り替えるという流れです。フッ素自体は地球環境にもともと存在するものですが、撥水性を持たせるために開発されたフッ素は地球環境に存在しない化合物です。これらが長年の使用で地球環境にばらまかれてしまっていることが問題となってきており、また近年、一部の物質で人体や生物にも悪影響が起こる可能性が指摘されています。

悪影響が分かってきた物質というのは現在では製造や使用は禁止になっていますが、それは極近年の話であり、日本の場合2019年に全面的な規制となりました。今ではより人体にも地球環境にも優しいフッ素化合物へ切り替わっています。アウトドアウェアの場合、2015年頃にはマイルドなフッ素化合物の撥水剤に変更されてきたという歴史があります。(なお、2015年以前のレインウェアを使用したとしても、人体に悪影響があるというわけではありません。)一方でフッ素化合物の使用自体を全面的に止めようという動きがあるのが今回のフッ素フリーの話となります。

ただし、フッ素を使った方が性能面では圧倒的に優秀であるため、フッ素フリーへの切り替えは短期的に痛みを伴います。私たちは性能劣化と向き合わなければなりません。フッ素を使わないで、よりよい撥水を行うために開発も行っていますが、残念ながら以前の性能には及ばず、それだけでは不十分であるため、ユーザーは洗濯やメンテナンスのようなケアをより頻繁に行う必要が出てきます。

PFCフリー(フッ素未使用)とPFC(フッ素使用)撥水、それぞれどのくらいの期間保つものでしょうか?

まず最初に、PFCフリー撥水であってもPFC撥水であっても、撥水性能は使用せずに保管するだけでは性能低下しないということを理解する必要があります。言い換えれば撥水性能は使用でのみ性能低下すると言えます。

この前提があるので、先の質問に適切にこたえるのが難しいです。使用でのみ性能低下するため、どのくらいの頻度でどの程度の使用をするかによって保つ期間が変わってしまうからです。毎週のように頻繁に山に行って厳しい山の環境でレインウェアを使う人と、たまにハイキングする人ではかなりの差が生じます。

そのため、この質問に対して答えるためには、今のところ比較が最も適しているだろうと考えて、私たちは幾つかの比較データを提示しています。一般に使用される防水スプレーや登山用品店で販売されている撥水剤、そしてクリーニング店との比較データをウェブサイトに公開しています。

では、PFCフリーとPFC撥水剤ではどのくらい違いが生じるかと言えば、およそPFC撥水剤の半分程度となります。もちろん前提はありまして、PFC撥水剤を使ったとしてもその性能差はありますので、何を基準にするかで変わってしまいますが、PFCの最高レベルの撥水と比べると現状のPFCフリーの撥水レベルはかなり差があると言わざるを得ないです。メーカーによっては、従来のPFC撥水と同レベルにできると謡っているメーカーもありますが、それは比較している試験が限定されているかもしくは比較するもともとのPFC撥水のレベルが低いためです。

このような実態がありますので、PFCフリーに移行することは短期的には、PFC撥水の高い性能に慣れてしまった私たちアウトドア愛好家にとってはデメリットに感じます。

PFC(フッ素使用)撥水はどのくらい人体に害がありますか?

結論から言えば、一部のPFCにおいて有害性が分かってきたのですが、だからと言って直ちに健康被害を起こすという話ではありません。これまで長期的にPFCを使ってきたことで地球環境に大量にばらまかれてしまったために、その使用を減らしていって、人工的に作られたPFCを減らしていこうというのが、現在私たちを始めとするメーカーが取り組んでいる本質的な内容です。

もちろん健康リスクがないわけではありません。しかし、正直に言えば私たちはPFCのことをまだよく理解できていません。PFCと言ってもたくさん種類があり、その量は膨大なため、以前よく使われてきたわずかな種類に対して、長年の研究より最近やっと有害の関連性が確認出来てきたという状況です。しかしながら、まだ課題は多く残り、たくさん摂取すれば有害であることは分かっていますが、ではいったいどのくらい摂取すると問題なのかはよくわかっていません。そのくらいまだまだ不透明というのが現状です。実は私たちすべての人の体内に微量のPFCが検出されるといっても過言ではありません。それくらい地球環境にはばらまかれています。

とりわけ、以前PFC製造工場で働いていた、もしくはその工場の周辺に住んでいたという特殊な場合で問題視されています。そのような方は血中のPFC濃度が通常と比べてかなり高い傾向にあり、その健康状況を監視していく必要があります。この場合でも直ちに問題が生じているというわけではなく、長い時間を掛けて監視して異常が発生する必要性があるという状況です。今ではより長く人体や環境に留まる可能性がある物質は規制されてきていますので(全世界ではないという点は付け加える必要があります)、有機フッ素化合物自体はまだ先進国でも製造されているとはいえ、かつて使用していたような物質とは別次元のレベルで安全になっているという点は理解する必要があります。ただし前述したように不明点が多く、100%安全だねとは言い切れないため、全てのPFCを規制しようという動きも始まってきています。

PFCフリーとPFC撥水で生地へのダメージはかわりますか?

PFCフリー撥水はまだまだ改善段階であり、今後変わっていく可能性がありますが、今のところ、変わらないと言えます。

フッ素が入っているか入っていないかで生地へのダメージが変わるものではなく、そして基本的な工程はPFCフリーもPFC撥水も変わらないためです。

PFCフリーで撥水を行う場合、洗濯やメンテナンス等、どのような点に注意する必要がありますか?

前述しているように、フッ素を使わないことで撥水性能劣化が起こっております。たとえばフッ素を使った撥水の場合、水だけではなく油も弾くことができるので、防汚性としても大変優秀でした。それがフッ素を使わない撥水の場合、油を弾くのは困難となり、撥水性能の劣化だけでなく、防汚性としても大きく劣ります。

現在、フッ素を使わないでよりよい撥水性能が出せるように世界的に開発は進められていますが、残念ながらフッ素を使った撥水と同じレベルには達していません。一部、同じレベルにまで開発ができたと言うメーカーもありますが、それはごく限られた試験でのコマーシャル的な話であり、総合的に見れば圧倒的に差があります。

残念ながらフッ素フリーの撥水性能は以前と比べて劣っているというのを認めざるを得ません。そのため、使用するユーザー側の協力も得ながら解決居ていこうというのが最近のメーカーの流れです。具体的には汚れやすくなった点、そして撥水の性能が劣っている点をユーザーの定期的なメンテナンス&ケアで解決していくという形です。

フッ素フリーの場合、これまで以上に洗濯や撥水の再加工が重要になります。より頻度が高く、そして品質が高い洗濯や撥水加工が必要になってきます。

PFCフリー撥水のメリットとは?

今までPFC撥水に慣れてしまった私たちには、これまで伝えたように、短期的にはデメリットが目立ちます。

その中で、PFCフリー撥水を行うメリットはどんなもなのでしょうか?

結論から言えばPFCフリー撥水を行うことで私たちは環境への責任を果たすことになります。

PFCに使われてる化合物は元々自然環境に存在しないものです。そのため、可能な限り分解しやすい物質に変えていく、もしくは自然環境に存在する物質に変えていくという形で私たちは動いています。

その中で一時的な痛みは伴うでしょう。私たちは短期的なデメリットに向き合う必要があります。

私はこの問題に対して、マイクロプラスチックに近い印象を持っています。プラスチックもそもそも地球環境に存在しないものですので、地球上にばらまかれている現状は好ましくないものです。可能な限り使用を減らしていく、回収を行っていくというのは私たちの必要な努めとなっています。

同じようにPFCも長年の使用で地球環境にばらまかれてしまっています。こちらはマイクロプラスチックよりさらに小さな形で存在するため、回収が難しく、非常に時間は掛かりますが分解されていくことを待つしかありません。そのためいま私たちができるのは、できる限りこれ以上地球環境にPFCをバラまかないということが努めとなります。ただしフッ素は非常に優秀な性質を持つため、簡単には切り替えられません。そのため医療や航空分野ではなく、衣類などの生命に直結しない分野から少しずつ切り替えていくということが望まれています。

 

最後に:すべてのPFC/PFASを有害と捉えるのも疑問が残る

最後に触れておかなければならない話があります。それは全てのPFC/PFASを一色単に捉えるのは疑問が残るという点です。

確かにPFC/PFASは人工的に作られた有機化合物ですが、問題が分かってきたのはその内のごく一部でしかありません。何十年とよく使われてきたものを調べてみた結果、近年問題が分かってきたのであって、その他大部分は不明です。不明なので予防的な観点で規制するという点は賛成です。ただし、有害なものと不明なものを一緒に捉えてはなりません。

もしかすると、この話はこれまでの話と矛盾しているように聞こえるかもしれません。ただ、先に説明したように、ごく一部のPFCが非常に分解されにくく、一度環境に放出されると分解までに長い時間が掛かってしまうものであるため、問題視されているのであって、分解性が良いものもあるわけであり、フッ素の特性を生かしつつ、環境分解性が良いのであれば利用した方が、包括的な環境インパクトは小さいということがあります。元素レベルではフッ素は私たちの周りにたくさん存在しているので、分解性が良いのであれば前提が変わってきます。

フッ素フリーの動きは推進していかなければなりませんが、同時に私たちはフッ素の活用を全否定するのではなく、引き続きその有害性や環境インパクトを調査していく必要があります。

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