熱を加えれば防水性能は回復するのか?

傘やレインウェアで水が弾かなくなってしまった際に、熱を加えると回復するということを聞いたことがあるかもしれません。実はこの話には、幾つかの誤解や間違いが含まれています。
そこで、この真意を撥水加工のプロフェッショナルである私たちが詳しく解説していきます。

回復するのは防水性能ではなく撥水性能

まずお伝えしたい点が回復可能なのは防水性能ではなく撥水性能です。

どちらも同じではないか?と思うかもしれませんが、これらは明確に違う現象です。
防水は生地目を塞いで水を通さなくすることであり、撥水は生地が水を吸収することを防いでいます。
撥水と防水の違いのより詳細な説明は別記事で行っているため確認いただけましたら幸いです。

防水性能の低下とは?

例えばレインウェアであれば、ゴアテックスのような水を通過しない生地を使って防水性能を保持しています。
ゴアテックスの本体となるメンブレンは大変安定的な素材であり、防水性能が劣化することはありません。
唯一防水性能が失われるタイミングは、穴が開いたり、破れたりしたときのみです。
傘であればコーティングによって防水性能を保持しています。
これらは傘の裏面に施されており、熱を加えて防水性能が回復することはありません。
むしろ熱を加えるとコーティングの劣化が早まりますので注意してください。

コーティングの場合、ゴアテックスなどのメンブレンとは違って、防水性をつかさどる樹脂が不安定なため、防水性能が時間と共に劣化する場合があります。
熱では回復することはできず、コーティングの防水性能が低下した場合、再度コーティングが難しく、修復困難となってしまいます。
これらコーティングの劣化を起こさないようにするには適切な保管が重要です。
何かに入れっぱなしで空気が循環しない場所に保管すると劣化が促進されますので、空気の循環がある場所で保管しましょう。

撥水性能とは?

一方で撥水性能とは、生地に水が吸収させずに、水が球体になる様です。
生地のような網目の場所に通常は水が入り込もうとしますが、化学の力でこれを防ぎます。
この撥水性能は時間の経過とともに劣化するわけではありません。
ただし、使用している際に与えられる様々なストレスによって撥水性能は低下していきます。
そのため、劣化して失ってしまった撥水性は回復させる処理を行う必要があります。
この時、劣化原因によって撥水の回復処理が異なってきます。それぞれの劣化原因と処理方法は後に詳しく解説します。

撥水性能は熱で回復する可能性あり

防水性能とは異なり、撥水性能は熱を加えて回復する可能性があります。ただし、条件があり、熱を加えれば必ず回復するかと言えばそうではありません。

結論から言いますと、熱を加える作業は難しくないので、撥水性が失われた場合、まずは熱を加えてみて、ダメだったら他の方法をトライするというのが基本となります。これを詳しく説明していきます。

撥水の低下要因は主に3つある

水を弾く性能である撥水性能を回復させるには、実は3つの方法があります。
撥水の低下要因によってどの処理が適切なのかが異なるので、まずは3つの低下要因をみていきます。

i)表面汚れの付着

撥水性能は生地表面にコーティングされた樹脂と水との化学的な力によって発生します。
生地表面の撥水成分を持つ樹脂と水が接触する場合に起こる現象であるため、もしその間に汚れが介在してしまうと撥水性能が出なくなってしまいます。
洗濯が適切にされていない場合などで、外側の汚れだけでなく、人の皮脂などの影響で内側の汚れも影響してきます。

ii)水との馴染み

先程i)で、撥水は生地の撥水成分を持つ樹脂と水が接触する場合に起こる現象と伝えましたが。この「撥水成分を持つ樹脂」というのが少しやっかいです。

樹脂と聞くとブロックパズルのような固まった物を想像すると思いますが、必ずしもそのような物ではありません。
撥水成分を持つ樹脂は温度にもよりますがゴム質で変化するものです。
そのためこの樹脂が水にずっと触れていると、樹脂の表面成分が変わってきてしまい性質が変わってしまうのです。
その結果として、水に触れていると撥水性を少しずつ失ってきます。
これを私たちは水への馴染みと呼んでいます。
ただし、水ではなく空気に触れている分にはそのような馴染みは起こりません。
そのため、使用せず保管しているだけでが撥水性の劣化は起こりません。

iii)撥水成分の離脱

アウトドアウェアに使用されている生地の糸は非常に強く切れにくい糸が使われていることが多いです。
しかしながら使用による摩耗やさまざまなストレスによって糸の一部が切れることがあります。
糸は元々撚糸といって、非常に細い繊維をまとめて糸として成り立っているので、糸が切れるというよりはその撚糸が切れるということです。
撥水のコーティングというのは糸表面にコーティングされますが、残念ながら内部まではコーティングされません。
そのため、撚糸が切れてしまうと糸の内部の面が露出することになり、新たにコーティングされていない面が露出するということです。

もちろん、これだけではなく、撥水成分が糸表面に十分に密着していない場合もあります。
防水スプレー等の簡素な処理は、糸表面に乗っているだけという場合もあり、使用によって撥水成分が脱落してしまうということもあります。

それぞれの撥水性の低下要因に対する対処法

撥水性の低下要因が違えばそれぞれの対処方も変わってきます。先に書いた見出しにあるように、熱を加えれば撥水性能は回復する可能性はありますが、それだけでは充分ではありません。
それぞれの低下要因に合った対処法を理解していきましょう。

i)表面汚れの付着には洗濯

表面汚れが付着してしまった場合と言うのは、生地に施された樹脂と水との間に汚れと言う介在物がいるので、それを除去するという処理になります。
洗濯するだけでも撥水性が回復する可能性があるというのはこのためです。
この場合は、特に熱処理等も必要とせず、表面をきれいにするだけで撥水性が向上する可能性があります。

注意しなければならないのは汚れも水汚れであれば家庭の洗濯で落としやすいのですが、その他に油汚れや不溶性汚れがあります。
それらは家庭の洗濯では落としにくくなりますので、専門的なクリーニングが必要になる可能性があります。

ii)水との馴染みには熱処理

水と長時間接触して水に馴染んでしまった場合は、熱処理が有効です。
原因の所でコーティングの樹脂は固まった物ではなく、ゴム質なものだとお伝えしましたが、熱を加えることでこの樹脂が活性化して、元の状態に戻ろうとします。
完全に元通りになるわけではありませんが、熱を加えて樹脂を活性化することで、ある程度撥水性を回復できます。

iii)撥水成分の離脱には再処理

撥水成分が生地から取れてしまった場合にはいくら洗濯しても、熱処理を行っても撥水性能は回復しません。
むしろより一層生地にダメージを加えていく事になります。
そこで、家庭でできる洗濯や熱処理を行っても撥水性が回復されない場合は、撥水の再処理を行ってください。

ここで、防水スプレーなどの簡単にできる撥水処理は、つまり簡単に離脱してしまう可能性があることも覚えておきましょう。
撥水性に耐久力を持たせるには、それなりの工程が必要になります。
そこで、防水スプレーや市販の撥水剤を使って不満だった筆者が開発した技術がDANSUIコーティングになります。

これは防水スプレーや市販の撥水剤と異なり、撥水剤だけを販売して各家庭で処理するのではなく、専門的な工場で撥水処理を行うことで耐久力のある撥水性能を引き出すという技術になります。
手間が掛かる分、生地により強固に固着するコーティングがしやすくなります。

もし防水スプレーや市販の撥水剤を処理したが性能に満足できない場合は、ぜひ私たちに問い合わせをください。

まとめ

熱を加えると撥水性が回復するという話を専門家の立場から説明しました。
これらはある意味本当の話でありますが、現象を理解してみると、熱を加えるだけでは不十分な場合があるということも理解いただけたかと思います。

そしてそれぞれの撥水性の低下要因に対して、それぞれの対処法があることも今回の記事で紹介しました。

最後により耐久性のある撥水処理を行うには、家庭で処理するのは難しく、専門的な処理が必要であることも覚えておいてください。

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