防水と撥水の違いをきちんと説明できる人は意外と少ないです。
登山用品やホームセンターでも、撥水効果だけの商品を防水剤として販売されていたり、ウェブサイトでも誤った説明がされていることが多いです。
そのため誤って認識している人が多いように思います。
例えばあるサイトでは、耐水→撥水→防水の順に強くなっていると記載されておりました。
これは完全に誤った解説になっています。
言葉の定義の部分もありますが、そもそも物理現象として違ったものを指しています。
今回の記事では防水と撥水の違い、そして耐水についても説明していきます。
撥水とは?
水を弾く現象です。油の場合は撥油とも表現されます。一般的に液体を弾いている現象は撥水と表現されることが多いです。
現象と表現している点がポイントです。現象とはつまりある物事が形をとって現れることとも言えます。「不思議な現象が起こる」と表現するように、何か目に見える形が起こった時に表現しますよね。
例えばテーブルに水をこぼしてしまったとしましょう。この時テーブルの上に水が広がった光景が何となく目に浮かぶと思います。これを「撥水している」と表現する人は少ないと思います。
では買ったばかりのレインウェアや傘に雨が降ってきたとしましょう。水は球体になって転がり落ちると思います。この状態を見て「撥水している」と表現することは納得いくかと思います。
上記は何が違うのでしょう?水はモノに触れる時に、触れたものがスポンジのようなもので吸収されるわけでないのであれば接触角と言うものを持ちます。接触角は0°~180°まで取ることができます。
Wikipediaから見やすい図があったので参考に記載します。この時CやSの図は45°以下となっていてあまり撥水していると言えませんね。何度の角度を持ったら撥水と言うかというのは少し難しく、ある文献では90°より大きいものが撥水、それ以下は濡れ(親水)と表現するというが、ではBが90°に相当するが、これは多くの人は撥水と表現するだろう。このように角度が何度から撥水というという定義についてははっきりするのは難しいのですが、ある程度接触角度を持った時に撥水と表現します。
ちなみに接触角が150°を超えるものを超撥水と呼びます。
防水とは?
防水とは水が入り込まないようにする機能を指します。
水が入らない現象を防水と言っても良いのでは?と考えるかもしれません。ただし、多くの場合、もともと水が入らないもの、例えば鉄の塊を防水と呼ぼないように、本来であれば水が入ってしまうような物を、ある工夫を施して水が入らないようにする、通過しないようにすることを防水と指すのが基本だと考えます。そのため防水は水が入らないようにする機能としています。
生地に対しての防水であれば、ある程度圧力が掛かっても水が入ってこないようにしてある生地を防水生地と呼びます。例えばこの生地は1000mmの防水性能を持っていると表現します。数字が高いほど防水性能が高い生地だと言えます。
これが機械であれば、水が掛かったり水の中に落としてもその機械が壊れないようにしてある加工を防水機器と呼びます。機械の場合IPXという防水企画があり、IPX7というように表現されます。数字が上がるほど防水性能は高くなり、最大値IPX8となります。
防水と撥水は現象か機能かの言葉の違いなの?
撥水は水を弾く現象で、防水は水を通さない機能とは言いましたが、現象と機能の違いで防水と撥水が分かれるだけではありません。それぞれ物理現象として全く異なっています。
ここでは生地に対して説明させていただきます。
防水生地というのは、生地に膜をラミネートしたり、膜をコーティングしたりすることで水が通り抜けないようにしています。膜やコーティングの性能によりどれだけの圧力が掛かっても水が通り抜けないかは決まりますが、いずれも水分子が通ることができる隙間を塞ぎ、水を通り抜けないようにしています。
一方で撥水はそれらと異なります。撥水は水自体の力です。水は何も力が加わらなければ丸くなろうとします。宇宙空間に浮かんだ水滴を映像で見たことがあるかもしれません。水が丸い塊になろうとします。じつはこれが撥水の元なのです。
撥水の説明の時に接触角について説明しましたが、水は何かに触れた時に水と触れたもので引き合う力が働きます。テーブルでも自動車のボディでもガラスでもビニールでもそうです。この時、触れるものによって水と引き合う力が異なります。水と引き合う力が強いと水は広がろうとしますし、水と引き合う力が弱く、さらに水が丸くなろうとする力より弱い場合、水は触れたものの上で水玉になろうとします。この時私たちは撥水していると呼びます。つまり撥水は水自身の力なのです。
よって防水と撥水は異なった物理現象であり、同じ事象を指してはいません。決して防水の弱いものを撥水と呼ぶわけではありません。
では耐水とは?
もう一つ似たような言葉として耐水があります。どこかのウェブサイトで耐水→撥水→防水の順で強くなっていると説明されていましたが決してそのような事ではありません。
例えば生地に対して耐水生地という基準はありません。防水と撥水についてはISOやJIS等で定められた試験があり、そこで測定された生地を防水生地なり撥水生地と呼びます。一方で耐水生地に相当する試験基準はありません。
言葉の上では、耐水というのは水に耐えられることを指しますので、防水だけでなくもっと幅広い状態を指すと言えると思います。例えば衣類言えば防水ジャケットだと縫い目まで水が入らないようにシームテープが貼られています。一方でそこまで防水性能を求めておらず、防水生地は使われていても縫い目には防水テープがされていないジャケットもあります。これらは防水ジャケットとは言えませんが、耐水ジャケットと言っても良いでしょう。水が掛かったとしても機能が失われないようなものを幅広く耐水と考えることができます。
また、防水性能を計測する試験の一つとして耐水圧試験があります。水に耐えること全般を耐水と表現できるため、防水性能を計測する試験もどの程度の圧力に耐えられるかという視点で測定され、耐水圧と呼ばれます。
機器に関する防水・耐水基準
生地とは異なり機器については耐水基準に相当する規格があります。これがIEC規格と呼ばれるものです。IPというのはIngress Protection(侵入に対する保護)ですので、砂やほこりなどの固形物体に対する侵入なのか水の侵入なのかに分かれて規格が決められています。水に対してはIPX00~IPX08までがあり、高い方がより防水性や耐水性が高いと言えます。これはあくまで侵入保護規格ですので、防水とも耐水とも表現されません。
その他耐水を使われる規格
例えば化粧品などではISOで定められる耐水性試験があります。水が触れてもその化粧品の機能を保てるかという試験となっており、こちらは耐水という表現のみ当てはまり、防水や撥水という表現は当てはまりません。
まとめ
今回は防水と撥水の違いを物理的な側面から説明しました。また耐水との違いも言葉上にはなりますが説明しました。
防水=撥水ではないことが理解いただけたかと思います。
そのため、防水であるが撥水していないということも起こりますし、撥水しているが防水ではないということも起こります。
それぞれ違う物理現象のため、どちらか一方が起こるということは十分にあり得るということを覚えておいてください。