様々な産業、特に繊維産業が環境に与える影響に対する意識が高まるにつれ、環境意識の高い消費者はブランドに対してより透明性と責任を求めるようになっています。
その結果、パーフルオロ化学物質(PFC)フリーの代替品の台頭が話題となってきています。
PFCは、耐水性や撥汚性のある繊維製品の製造に一般的に使用されてきましたが、人の健康や環境に害を及ぼす可能性があるとして問題視されるようになりました。
そのため、より環境に優しく安全な選択肢を求める消費者が増え、PFCフリーの代替品を求める動きが高まってきています。
サステナブル・ブランドは、顧客の価値観に沿うだけでなく、顧客が期待する性能と機能性を備えたPFCフリー製品を提供することで、この傾向に乗じるようになりました。
アウトドア・アパレルから家庭用家具に至るまで、環境に優しい代替品への需要は市場全体を再構築しつつあるといえます。
この記事では、PFCフリーの撥水剤そしてC0撥水剤の解説を行っていき、PFCフリーの選択肢の台頭の背景にある理由を探り、持続可能な消費者がこうした代替品にますます引き寄せられる理由を探ります。
PFCと環境への影響を理解する
有機フッ素化化学物質(PFC)は、その耐水性と防汚性により、長い間繊維産業で使用されてきました。
衣類だけでなく、機械、半導体、航空機、印刷、食品包装に至るまでここで挙げきれないほど多様な分野で使用されています。
しかし、PFCが広く使用されるようになったことで、人の健康や環境に害を及ぼす可能性がだんだんと分かってきました。
PFCはフッ素と炭素の結びつきの強さから安定性が高く環境中に残留し、分解されにくくなっています。
水中や土中などあらゆる場所にごく微量ながら検出されています。
半世紀以上にわたって様々な産業でPFCが利用され、地球上に拡散し、私たちは地球上の何処にいたとしてもPFCを暴露せざるを得ない状況です。
また、特に有機フッ素化合物を製造していた工場付近では高濃度で検出されているケースが目立ちます。
とくに飲み水にPFCが含まれてしまうことで、私たちも知らずに摂取している場合があるので注意が必要です。
PFCの危険性と人体への影響
PFCが人体に及ぼす潜在的な危険性を見過ごすことはできません。
これらの化学物質は、発育や生殖の問題、甲状腺疾患、免疫機能の低下など、さまざまな健康問題に関連していることが近年わかってきました。
PFCは時間とともに体内に蓄積し、長期的な健康リスクにつながることが研究で示されています。
PFCへの暴露の影響は、妊娠中の女性や子どもといった弱い立場にある人々にとって特に懸念されます。
近年ではPFCの内一部の物質であるPFOAがIARCの発がん性物質として分類されたことも記憶に新しいです。
人の血液中の半減期はPFOSで5.4年、PFOAで3.8年と言われていて、これが他の人体に有害な物質の半減期に比べて圧倒的に長いことが問題です。
一度摂取してしまうと腎臓に溜まってしまいなかなか体から抜けません。
フォーエバーケミカルと揶揄されるくらい、永い間人体や環境に留まっているのです。
ただしPFCのすべてが有害というのは誤解である
これまでの説明では、すべてのPFCが環境や人体に有害のような説明に感じられてしまったかもしれないが、これは誤解があります。
PFCと言ってもその種類は何千に及びます。
正直言うと、ほとんどのPFCについて私たちはよくわかっていないのです。
PFAS,PFOSをはじめとしたごく一部のPFCについては研究が進んできて、取りすぎると人体に影響があることが分かってきているが、ではどのくらい少量でも影響があるのかはまだよくわかりません。
取りすぎたら良くないということが分かっているに過ぎないです。
どのくらい摂取すると影響があるのかまでは実は分かっていません。
そのため基準値も国によってバラバラというのが実情です。
そもそもPFCといってもその種類は4千種類以上にも及びます、それらPFCの中で、PFASとPFOSは化学式上で近い物と言えますが、特性は異なり、人体への影響も異なっていることが分かっています。
これらは長鎖と呼ばれる炭素が長く連なっているものとして分類できますが、逆に言えば短鎖と呼ばれる炭素の連なりが短いものもあります。
長鎖については確かに結合エネルギーが高くて安定性が高く、環境中でも分解されにくいという特性はありますが、短鎖においてはそれと比べると圧倒的に分解されやすくなっています。
同じく人体の蓄積性も低くなる傾向です。
このような点でもPFCすべてが人体に有害で環境にも有害なのかという点についてはかなり疑問は残ってしまいます。
歯磨き粉やフライパンのフッ素は大丈夫?
それでは身の回りにあるフッ素化合物に対してこれらが有害であるかを考えてみましょう。
まずは皆さんにもなじみのある歯磨き粉に含まれるフッ素です。
これらは無機フッ素と呼ばれるフッ素となり、炭素結合が無いです。
これまで記載したPFCというのは炭素とフッ素が結びついた有機フッ素化合物というものになり、これらはまったくの別物です。
食塩とビニール袋を同じ物と考える人はいないと思いますが、それと同じくらい、フッ素が使われているからと言ってPFCと歯磨き粉のフッ素を同じにしてはいけません。
PFCが有害=歯磨き粉にフッ素が含むと有害ということではないことを、まずは頭に入れておきましょう。
では、フライパンにコーティングされているフッ素はどうでしょうか?
こちらは衣類と同じPFCが使われていた経緯があります。
もしかするとあなたの家でもPFCが使われているコーティングのフライパンがあるかもしれません。
では直ちにこれらの使用を辞めなければならないのでしょうか?
答えはNoです。
詳細についてはまたどこかで詳しく書きたいとおもいますが、これらは安定したポリマーと呼ばれる物質で、たとえフライパンのコーティングの小さな破片を飲み込んだとしても吸収されずに排出されてしまうことが分かっています。
気を付けなければならないのはPFC製造工場付近など一部の場所であり、一般生活においてPFCを全く暴露されないことはないのですが、直ちに危険と言うのは誤解です。
ただし、大変専門的な知識が必要になるのでここではこの程度の説明で留めておきます。
C0撥水とは?
PFCフリーの撥水剤の事をC0撥水と呼ぶことがあります。
これはこれまでの撥水剤の歴史が関わっています。
C0撥水の意味を正確に表現すると、炭素のない撥水剤と言うことになるはずですが、PFCフリー撥水剤にはほとんどの物で炭素は含まれています。
ではなぜC0撥水と呼ぶのでしょうか?
PFC撥水剤を使ってきた歴史から、Cつまり炭素数の多さで撥水剤が変更になってきた背景があります。
2015年より前は炭素が8つ連なったC8撥水剤が良く使われていました。
これらが規制対象となり、次は炭素が6つ連なったC6撥水剤が極近年、2023-2024年現在に至るまで使われています。
これらはCとFつまり炭素とフッ素が結合している部分を指しており、C0撥水というのはフッ素を含まなくなったということを便宜的に指しています。
アウトドア愛好家の中ではこの呼び方の方が馴染みがあるかもしれませんが、学術的には間違っているとも言えます。
C0撥水剤と言っても伝わりますが、PFCフリー撥水剤と言う方がより正しく表現できています。
政府によるPFCの規制と禁止
PFCの環境および健康への影響に対する懸念の高まりを受けて、世界中の政府がPFCの規制や禁止に乗り出しています。
たとえば欧州連合(EU)は、REACHという規制の中で繊維製品を含む消費者製品における特定のPFCの使用を制限を掛けようという動きがあります。
このような規制や禁止措置により、PFCフリーの代替品への需要が高まってきています。
PFCフリーの製品を提供することで、企業は規制要件を満たすだけでなく、持続可能性におけるリーダーとしての地位を確立することができるからです。
ただし単純にPFCフリーに置き換えて済む問題ではなく、圧倒的に優位な性能を持つPFCを変更するにはいくつもの問題が生じます。
これらは後に説明していきます。
環境にやさしいPFC代替品、PFCフリーのメリット
PFCの代替となる環境に優しい素材を探すことで、繊維技術は大きく進歩しました。
各ブランドは現在、有害な化学物質を使用せずに撥水性と防汚性を実現する革新的なソリューションを開発しています。
その一例が、ワックスや植物オイルといった植物由来のコーティング剤を使用した撥水加工でもあります。
これらのコーティング剤は生分解性があり、PFCのような環境リスクや健康リスクは極めて低くなります。
その他の代替案としては、新たな資源採取の必要性を減らすリサイクル素材や、化学的ではなく機械的な構造で水をはじく革新的な生地構造などがあります。
PFCフリーのデメリット
PFCフリーにすることにより環境に優しい物質に変わった一方で、失ったものもあります。
それが撥水性能です。
PFCは炭素とフッ素の結合の強さから安定性が高く、撥水性能としても高くそして寿命も長かったです。
PFCフリーにすることは撥水性能の性能も寿命も劣ってしまいます。
特にその寿命については不満に感じる人が多いかもしれません。
同時に油を弾く性能、つまり撥油性能も失います。
PFCを使わない表面処理の場合、油を弾く能力を付与するのは化学特性上かなり困難です。
もともとPFC撥水剤であっても、使用によって生地が摩耗することで撥水性能は低下していました。
そのため、既にゴアテックスウェアなど高価なウェアでも撥水性能が失うことで不満に感じていた人がいるかもしれません。
残念ながらPFCフリー撥水剤にすることでこれらはより加速します。
ではどうしたらよいでしょうか?
私たちはより一層メンテナンスを定期的に行い、ウェアを良い状態に保っておく必要があります。
ゴアテックスなどの高機能ウェアは撥水性が有効でこそその透湿性が活用できます。
撥水性が無くなってしまったレインウェアはゴアテックスであっても通気性のないビニールカッパと変わらなくなってしまうのです。
定期的な洗濯が必要になるし、洗濯だけでは不十分で撥水性の回復作業が必要になります。
撥水性の回復は防水スプレーのような簡単なやり方もありますが、さらに専門的に私たちのようなプロフェッショナルとして撥水性の回復、そしてゴアテックスのような専門的な衣類を扱う専門家に依頼するソリューションも提供されています。
PFCフリーというのは、今まで以上にメンテナンスに気を配らなければならない時代になってしまったということです。
企業が持続可能な消費者の要求に応えるには
持続可能な消費者の要求に応えるためには、企業は持続可能性に対する総合的なアプローチを採用する必要があります。
これには、サプライチェーンの見直し、責任ある原材料の調達、環境に配慮した生産プロセスの導入などが含まれます。
また、消費者が十分な情報を得た上で購買決定を下せるよう、透明性を確保し、消費者と明確なコミュニケーションをとることも必要です。
ブランドはまた、イノベーションを推進し、持続可能なソリューションを開発するために、業界のパートナーや組織と協力することもできるでしょう。
業界が協力することで、より持続可能な未来への移行を加速させることができると思います。
PFCフリー代替品の採用で成功したブランドのケーススタディ
すでにいくつかのブランドがPFCフリーの代替素材を採用し、成果を上げています。
アウトドア・アパレル・ブランドとして知られるパタゴニアは、長年にわたり持続可能性におけるリーダー的存在です。
パタゴニアは性能を損なうことなく、耐水性ウェアにPFCフリーの代替素材を開発することに成功しました。
これにはゴア社の優秀な技術開発があったことを記載せずにはいられません。
もうひとつの例は、PFCを含む有害な化学物質を自社製品から段階的に排除しているスウェーデンの大手家具ブランド、イケアです。
PFCフリーの選択肢を提供することで、イケアは持続可能な消費者の要求に応えるだけでなく、業界全体の模範を示しています。
結論 持続可能な消費主義の未来とPFCフリー代替品の役割
持続可能な消費主義が勢いを増すにつれ、PFCフリー代替品への需要は高まる一方です。
消費者は、自分たちの買い物が環境に与える影響をより意識するようになり、環境に優しい選択肢を積極的に求めるようになっているように思います。
PFCフリー代替品の台頭は単なるトレンドではなく、より持続可能な未来に向けた大きなシフトの反映だとも言えます。
PFCフリーの製品を採用することで、ブランドは持続可能な消費者の要求に応えるだけでなく、将来の世代のために、より健全な地球に貢献することができると思います。
繊維産業が進化を続ける中、企業は適応と革新を遂げ、持続可能性を戦略の最前線に据え続けることが極めて重要だと感じております。