羊毛がもつ天然の撥水効果が、海の男たちの命を救った

「フィッシャーマンズセーター」といわれるセーターの伝統的な手編み柄に、「アラン模様」というものがあります。縄や網のような形をした連続模様で、アイルランドの西岸に位置するアラン諸島で編まれていたところからこの名がついたとか。

羊毛と撥水の意外な接点

 この編み方の特徴は、糸を交差させたり「引き返し編み」をていねいにくり返すことで、毛糸を多層的に重ねる構造になっている点。それだけでも、保温効果に優れていることはなんとなくわかりますが、さらに本家本元のアランセーターは、「グリースウール」、つまり脂分を取り去る前の羊毛を使って編むものでした。

 羊毛についている羊毛脂は「ラノリン」と呼ばれ、ラテン語で羊毛を意味するlanaと、油を意味するoleumからできた言葉。ですが、厳密にいえば「脂質」ではなく、ロウに近い物質です。これは羊の表皮にある皮脂腺から分泌され、風雨や乾湿、害虫や汚れなどから体表を守る役割を果たしています。

 つまり、アラン編みのフィッシャーマンズセーターは、天然の撥水処理が施された繊維を重ねた防護服、「シェル」であったことになります。なにより、羊毛は軽くて動きやすい。

天然素材しかない、ひと昔前までの北の海。男たちにとって、グリースウールを素材とするアラン編みのセーターは、保温性、軽量性、撥水性という機能を満たした、たいそう優れた労働着であり、「アウトドアギア」だったわけです。

そんなスグレモノをじっくり観察・研究して開発されたのが、現代の撥水剤というわけです。まさに、世界じゅうの先人たちの知恵と工夫が結集されているのですね。

 ちなみに、冒頭のアラン編みは、アラン島では家紋のようなもの。家ごとに編み模様が決まっていて、万が一のとき、着ているセーターの模様で、どの家の者かが判別できるようになっていたという説があります。が、ほんとうのところ、それは定かではないようです。

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