アウトドア好きの皆さん、こんにちは!今回は「レインウェアに熱を加えると防水性能が回復する」という話について、本当なのか詳しく検証していきます。この記事では専門家の見解と実際の実験結果をもとに、事実関係を整理し、正しいメンテナンス方法をご紹介します。
防水性能と撥水性能は別物である
まず最初に言いたいのは、回復するのは防水性能ではなく、撥水性能です。
多くの人がこの二つを混同していますが、これらは全く異なる機能です。
- 防水性能:水が生地を通過するのを防ぐ機能
- 撥水性能:水が生地に吸収されるのを防ぎ、表面で水玉になって弾く機能
レインウェアの場合、防水性能はゴアテックスなどのメンブレン(膜)や防水樹脂のコーティングによって得られます。一方、撥水性能は生地の表面に施された特殊な化学処理(DWR:耐久撥水加工)によるものです。
防水性能は熱では回復しない
防水性能が低下する原因は主に以下の2つです:
- 物理的な破損(穴、裂け目など)
- コーティングの場合は、コーティング樹脂の経年劣化
このうち、熱処理で回復するのはどちらでもありません。特にコーティングタイプの防水樹脂素材では、むしろ熱を加えることで劣化が促進される場合があります。
防水コーティングが劣化してしまった場合、残念ながら修復は困難です。メンブレンタイプ(ゴアテックスなど)の場合も、メンブレン自体の防水性能が低下することはほとんどあり得ませんが、もし防水性が一度低下した場合は熱処理では回復しません。
撥水性能は熱で回復する可能性がある
一方で、撥水性能はその低下要因次第で、熱処理により回復することがあります。まずは撥水性が低下する主な原因の3つを紹介します:
1. 表面汚れの付着
皮脂や泥などの汚れが生地表面に付着すると、撥水効果が損なわれます。この場合、洗濯によって汚れを除去することで撥水性が回復する可能性があります。
2. 水との馴染み
撥水加工に使われる樹脂は、長時間水に触れていると性質が変化し、撥水効果が低下します。これを「水への馴染み」と呼びます。この状態になった生地に熱を加えると、樹脂が活性化して元の状態に近づき、撥水性が回復することがあります。
3. 撥水成分の剥がれ
着用によって生地が摩耗したり、撥水成分が脱落したりすると、撥水効果が失われます。この場合、熱処理だけでは回復せず、撥水剤による再処理が必要です。
熱処理は本当に効果があるのか?
いくつかの実験結果から、適切な熱処理は撥水性の回復に効果があることが確認されています。
Akimamaによる検証実験
アウトドアサイトAkimamaでは、撥水性が低下したレインウェアにアイロンをかける実験を行いました。当て布を使って低温から中温でアイロンをかけたところ、水をかけるとしっかり水玉になって弾くようになりました。Akimamaの記者は「気のせいか、乾燥機で熱処理をするよりもアイロンの方が仕上がりも良く、撥水性も回復しているような気配」と報告しています。
ForRによるドライヤー実験
バイク用品サイトForRでは、レインウェアにドライヤーの温風を当てる実験を実施。表地から10cm以上離し、一カ所につき30秒程度の温風を当てた結果、「表地が水をきれいに弾き、丸い水滴になった」と報告しています。簡単に説明すると、摩擦や汚れなどで「寝てしまった」撥水基が加熱によって「立ち直る」ことで効果が回復したとされています。
熱処理の正しい方法
撥水性を回復させるための熱処理には、いくつかの方法があります。どの方法も製品の洗濯表示を必ず確認してから行いましょう。
1. 乾燥機による方法(最も推奨)
- 低温設定(約60℃)で20分程度
- メリット:全体に均一に熱が当たる
- 注意点:洗濯表示で乾燥機OKか確認する
2. アイロンによる方法
- 当て布を必ず使用
- 低温〜中温設定(素材によって異なる)
- 強く押さえつけない
- ロゴマークや止水ファスナーには当てない
- 注意点:場所によるムラが生じやすい
3. ドライヤーによる方法
- 表面から10cm程度離す
- 約60℃の温風を一箇所につき30秒程度
- 注意点:長時間当て続けると素材を傷める可能性あり
熱処理だけでは不十分な場合
一方で、撥水性能要因が異なる場合は撥水性が熱処理だけでは回復しないことがあります。その場合の対処法を確認しましょう:
1. 専用洗剤での洗濯
皮脂や汚れが付着している場合、アウトドアウェア専用の洗剤で洗濯することで撥水性が回復することがあります。通常の洗濯洗剤には衣類に残留する成分が含まれていることがあり、再撥水処理を行う際に阻害する可能性があるため、専用洗剤を使用することをお勧めします。
2. 撥水剤による再処理
撥水成分が脱落している場合は、市販の撥水剤を使用して再処理が必要です。撥水剤には以下のタイプがあります:
- スプレータイプ:手軽だが均一に塗布するのが難しい
- 浸透タイプ:水に溶かして衣類を浸す方法で均一に加工できる
専門家によると、単に表面に撥水剤を吹きかける程度では耐久性に欠けるとのこと。より耐久性の高い撥水処理を望む場合は、専門業者droproofによるDANSUIコーティングのような高度な処理を検討するという選択肢もあります。
専門家のアドバイス:正しいメンテナンスサイクル
レインウェアの機能を最大限に活かすためには、以下のメンテナンスサイクルを守ることが重要です:
- 使用後は速やかに洗濯:山と溪谷オンラインによると、「レインウェアのお手入れの秘訣は『使ったらすぐに洗濯』」とのこと。汚れを放置すると機能低下の原因になります。
- 専用洗剤で洗う:皮脂や汚れを効果的に除去するため、アウトドアウェア専用の洗剤を使用しましょう。
- 十分にすすぐ:洗剤が残ると撥水性が低下するため、しっかりとすすぎましょう。
- 熱処理を行う:洗濯・乾燥後に適切な熱処理を行い、撥水性を活性化させます。
- 必要に応じて撥水剤で再処理:熱処理だけで撥水性が回復しない場合は、撥水剤による再処理を検討します。
まとめ:事実はどうなのか?
結論から言うと:
- 防水性能は熱処理では回復しません。物理的な破損やコーティングの劣化による防水性能の低下は、熱では解決できません。
- 撥水性能は特定の条件下(水との馴染みによる低下など)で熱処理により回復する可能性があります。しかし、すべての状況で効果があるわけではありません。
- 最適なアプローチは、まず洗濯して汚れを落とし、次に熱処理を試み、それでも効果がない場合は撥水剤による再処理を行うことです。
レインウェアを長持ちさせるには、正しい知識に基づいたメンテナンスが不可欠です。「熱を加えれば防水性能が回復する」という誤解を解き、適切なケアで大切なギアを長く使いましょう!
番外編:正しい保管方法
最後に、使用していないときの正しい保管方法も重要です:
- 完全に乾かしてから保管する
- 圧縮した状態での長期保管は避ける
- 通気性の良い場所で保管する(収納袋に入れっぱなしは避ける)
- 直射日光の当たらない場所で保管する
これらの点に気をつければ、次回の冒険まで大切なレインウェアの性能を維持することができます。