防水スプレーを選ぶ際に、フッ素系、シリコン系、炭化水素系などが販売されていますが、色々あって悩みませんか?これらの違いを説明することで、防水スプレーの選び方の一助になればと思い書いています。
私はアウトドア専門のクリーニング店を運営しています。そのようなプロの立場から防水スプレーの選び方をお伝えしていきたいと思います。
最も撥水性が優秀なのはフッ素系
フッ素系の防水スプレーは撥水性能が優秀である点が特徴です。フッ素には化学的に他の元素にはない特性があり、その特性上、撥水性に重要な指標となるコーティング表面の表面張力エネルギーを大変低く保つことができます。フッ素を使った表面が理論上最も低くすることができるため、フッ素系が撥水性で最も優秀な性能を出すことができます。さらには、フッ素系は撥油性を出すことができます。撥水性と撥油性を高いレベルで実現できるのはフッ素系のみとなっています。撥油性は必要ないと思うかもしれませんが、防汚性能で撥油性が必要になってきます。水だけでなく油も弾くことで、より汚れにくくできることは大変メリットです。
フッ素系防水スプレーの通気性・透湿性
フッ素を使った場合のデメリットについてですが、まず衣類に使った場合、通気性や透湿性が損なわれるのではないかと心配になりますが、こちらは問題になるレベルにはなりません。先程、フッ素をコーティングすると書きましたが、糸と糸の間の空間を埋めるようなコーティングではなく、あくまで糸の周りにくっ付くようなイメージを持ってください。糸の表面にごく薄い膜としてコーティングされるので、通気性や透湿性の阻害の心配はありません。
フッ素系防水スプレーの問題点
しかしながら近年、フッ素の問題点が明らかになり、ヨーロッパ等の環境先進国では使用を避けるようになってきています。フッ素が問題と言うのは誤解があり、防水スプレーに使われる有機フッ素化合物が問題となります。今防水スプレーに使われている有機フッ素化合物は現在問題視されている規制物質とは異なっており、改善された物です。しかしながら有機フッ素化合物の影響と言うのは実はまだよくわからない点が多く、改善されたと言えども100%問題が無くなったとは言いにくい点があります。この100%問題が無くなったとは言いにくい部分に対して、ヨーロッパを始めとした環境先進国では問題視しており、疑わしきものは使わないということで、使用が避けられています。そしてこの流れは日本にも浸透してきており、日本の防水スプレーもだんだんとフッ素系の物は少なくなっております。
2024年時点で問題視されている物質が含まれた防水スプレーが日本で販売されているわけではありませんので、決して使用してはいけないというわけではありません。
炭化水素系防水スプレー
先程述べたフッ素系の問題点に対して、その代替品として使われてきているのが炭化水素系です。炭化水素系は前述のような問題点が環境面でも健康面でもありません。しかしながらフッ素に対して性能が出ない点が問題であります。
炭化水素系の撥水剤も現在力を入れて改良されており、性能は日々改善してきているものの、フッ素系撥水剤が優秀すぎるため、大きな差があると言わざるを得ません。撥水性だけであればある程度フッ素系防水スプレーの性能に近づけることができますが、大きく劣る点が撥油性です。
炭化水素系防水スプレーの欠点
撥油性というと、必要ないのではないか、防水性があれば十分ではないか疑問に持たれるかと思います。しかしながら実用面ではそうもいきません。日常で使用する場合、大気中にもさまざまな油分が含んでいます。人の汗や皮膚にも油分が含まれますので、触っただけで油の抵抗の無さから、同時に撥水性も失ってしまうという事象が発生します。レインウェア等であれば肌に触れる部分は撥水性を失ってしまうという事象に繋がりかねません。撥水性をロングライフに保つには実は撥油性も寄与していました。この撥水性と撥油性の高いレベルの実現がフッ素系防水スプレーでは実現できていました。それが後述するシリコン系であっても、炭化水素系であっても実現は困難な状況です。これは化学的性質上で決まってしまう為、2024年現在でも、この難題にどのメーカーであっても克服できているわけではありません。
シリコン系防水スプレー
シリコン系防水スプレーも炭化水素系防水スプレーと同じく、フッ素系の代替品として注目を集めています。フッ素系防水スプレーと共に以前から使用されてきたので聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
シリコン系の特徴としては、撥水性能面では炭化水素系と同じく、フッ素系の防水スプレーに対して性能面では及びません。基本的は性能は炭化水素系と同じになります。これはシリコン系ではケイ素(つまり英語で言うとシリコン)が使われるのですが、撥水で寄与しているのではなく、骨格の方にケイ素が使われるため、撥水面に寄与する部分は炭化水素系と同じだからです。そのため、先ほど炭化水素系と同じデメリットでもある、撥油性がないというのが特徴です。
ケイ素はガラスに多く含まれる性質なので、ガラスライクな性質を持たせることが可能になります。そのような意味で、撥水の持続性を高めるという点が炭化水素系よりも有利に働く場合があります。ただし炭化水素系も開発が進んでおり、どちらが優秀かと言う点は今後の開発状況次第とも言えます。
環境面や人体面においてもフッ素のような問題点は見つかっておらず、現在フッ素系の代替候補として最も利用されている防水スプレーとも言えます。
シリコン系はゴアテックスには使えない??
シリコン系の防水スプレーは通気性や透湿性を無くしてしまう加工なのでゴアテックスのような防水透湿性素材には使えないという記事を幾つか見かけますが、これは誤った情報です。シリコン系であっても、現在販売されているもののほとんどは防水性ではなく撥水性を出すためのスプレーですので、生地目を塞いでしまうような効果はなく、あくまで糸周辺をコーティングして撥水性を出しています。最近販売されている大手メーカーさんの防水スプレーの裏書にはゴアテックスなどの防水透湿性素材にも使えますと記載されているのはそのような理由からです。
まとめ
今回、フッ素系防水スプレー、炭化水素系防水スプレー、シリコン系防水スプレーはそれぞれどんな特徴があり、どんなメリットとデメリットがあるのかを、アウトドア専門のクリーニングのプロの観点より解説しました。
今後、フッ素系は使えなくなる、販売されなくなるという動向になっていますので、炭化水素系やシリコン系の防水スプレーの特徴を理解するとともに今後の開発状況にも注目です。