フッ素は有害?有機フッ素化合物(PFAS)と無機フッ素化合物は別物

私たちアウトドア業界もフッ素を使わない素材や撥水剤に切り替わりつつある状況でありますが、一方で、フッ素が有害だから切り替わるという認識でいる人がいます。
この認識は完全に間違いとは言えない部分は残っているものの、多くの場合誤解が含まれています。
ここではフッ素は有害という間違った認識を、正しい知識に変換することで、私たちはより正しくフッ素を利用できると思いますので、解説していきたいと思います。

フッ素を元素単位として捉えるだけでは不足

まず、私たちはフッ素を元素の単体として捉えて判断してはいけないという原則があります。

そもそもフッ素が元素単体で存在していることはまずあり得ないことで、フッ素ガスとして存在していることも稀です。
確かにフッ素ガスは非常に危険なガスで、触れたり吸い込んではならないガスですが、だからフッ素が含まれているものは有害というのはかなり飛躍した認識です。

これを言ってしまうと塩素も同じです。
塩素も塩素ガスとしては同じく危険なガスです。
だからと言って塩素が含まれているものは危険ということはありません。
塩素の元素は身の回りの多くの物に含まれています。
そして食べ物にも塩素の元素は含まれています。

同じように、フッ素も元素としては身の回りの色々なものに含まれているだけでなく、食べるものにも含まれています。
例えば海産物に含まれていることが多く、日本人はフッ素の元素を全く取らない日はないとも言えると思います。

フッ素を元素として有害なのか無害かを語ってもほとんど意味を成しません。

フッ素元素が含まれているからと言って、有害なのか無害なのかを判断することはできないのです。

虫歯予防としてのフッ素は有害?

私たちの身近に使われているフッ素として、虫歯予防としてのフッ素利用があります。
人体に有害だとしたら大変なことですよね。
これらのフッ素は無機フッ素と呼ばれる種類となり、人体や環境に有害視されている有機フッ素化合物(PFAS)とは別物になります。

例えば同じ塩素が使われているものとしてビニール袋と食塩がありますが、これらは塩素が含まれているからと言って同じものと認識しないように、フッ素が含まれているからと言って虫歯予防のフッ素とこれから説明する有機フッ素化合物(PFAS)はまったくの別物です。

一部、幼児にフッ素が制限されているため有害なのではないかと心配されている方も見受けられます。
どんな栄養素でも体に取り入れすぎることは害になります。フッ素も同じで、取りすぎると有害になりますが、それが幼児の場合、うがいでフッ素を利用する際に、誤って飲み込んでしまった場合、摂取量が多くなりすぎる場合があるため、3歳未満になるまでうがいでのフッ素利用は避けましょうと言うことになっています。
大人でも取りすぎることは良くないのですが、それはどんな栄養素も同じ話ですので、とりわけフッ素が良くないという話ではありません。

私たちが問題視しているのは有機フッ素化合物(PFAS)

これらに対して、最近問題視されているのは有機フッ素化合物というものです。何が違うのかと言えば、炭素とフッ素の結びつきがあるかどうかの違いです。
それだけの違いですが、物性としては大きな違いを生みます。

では有機フッ素化合物の何が問題化と言うと、まずはこれらが人工物である点、そして炭素とフッ素の結合が強いため、環境に放出されてもなかなか分解せずに残ってしまうという問題があります。
北極の生物からもPFASが検出されたりしており、長く環境にとどまっています。

そして人体や生物にも有害の可能性が指摘されています。
2023年というかなり最近の話ですが、PFCsの一部であるPFOAを国際がん研究機関(IARC)は発がん性の可能性がある物質としました。
また、ホルモンかく乱作用、免疫機能の低下も指摘されています。

このような指摘があり、有機フッ素化合物(PFAS)は有害だと言われています。

ただし有機フッ素化合物(PFAS)を有害とするには注意点もある

先に記載したような問題点が見つかっている有機フッ素化合物ですが、だからと言って即有機フッ素化合物を使用中止にできない側面もあります。

まずは有機フッ素化合物の特性が素晴らしいために、使用を中止した場合の各産業への影響が大きすぎる点です。
有機フッ素化合物が優秀な性質を持っているだけに、これに変わる代替物質がなかなか見当たらないということも問題です。

有害性には摂取量も関係する

また、先に記載した人体への影響もあくまで懸念性があるということであり、確実に影響しているとは断定できていません(ちなみにPFOAについては、国際がん研究機関(IARC)は発がん性物質として十分な根拠があるとしましたが、後述する量も問題ですし、PFOSに関しては可能性に留まりますし、その他のPFASは可能性すら分かりません)。

また、その摂取量についても問題が残ります。
確かに動物実験にて、たくさん摂取して人体に蓄積された際には影響があることは分かっていますが、ではいったいどれだけ蓄積されると問題があるのか、実際にはあまり分かっていないのです。
他の物質でも多量に人体に取り込むと有害になることはあるので、あくまで懸念があるという表現にとどまるということは知っておく必要があります。

全ての有機フッ素化合物(PFAS)を理解できているわけではない

さらには、先に記載した人体の影響も有機フッ素化合物のごく一部の物質の話であって、全部ではないということです。
むしろ、有機フッ素化合物のごく一部の事しか調査ができておらず、ほとんどの有機フッ素化合物のことを私たちはよくわかっていません。
調べているのは有機フッ素化合物の中でも私たちが過去にたくさん使用してきたものであります。
そのため、有機フッ素化合物の中には比較的環境中でも分解されやすく、人体にも蓄積性がそれほど高くないものもあります。しかしながらそのようなものまでは調査が追いついておらず、ごく一部の有機フッ素化合物の有害懸念性が分かってきたということにとどまります。

PFASフリー、PFCフリーへの動き

確かにまだ十分に調べ切れていない有機フッ素化合物ですが、もともと自然界に存在しない物質であることは確かなので、それらが自然界に放出されるのは望ましいことではありません。
わたしたちはこれらをできるだけ排除する必要があります。
そのための努力を各メーカーが行っており、例えばゴアテックスは元々、有機フッ素化合物の塊のような物なのですが、それを使わない新しい素材のゴアテックスを開発しました。
そしてその新しい素材のゴアテックスを使って、完全にフッ素を使わないレインジャケットをパタゴニアは開発しています。有機フッ素化合物を使ったレインジャケットはこれまで当たり前だっただけに新しいチャレンジングな取り組みと言えます。

まとめ

このように私たちは有機フッ素化合物を正しく理解して、直ちに有害と言う誤解を持つのではなく、有害の可能性のある物質として注視しながら、そして自然界に無い有機フッ素化合物をこれ以上放出しない努力を続ける必要がある。

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